体験を設計せよ
こんにちは。せいのちさとです。
このニュースレターでは、最近の制作についてや、マニアックな制作の裏側についてなどをお伝えしていきます。気になるところから読んでみてくださいね。
今号より全5回で個展の準備から開催までの進捗を熱くお伝えしていきます。
目次
特集「体験を設計せよ」
最新情報
※個展準備の時間を捻出するため、「ものづくりコラム」の連載はしばらくお休みさせていただきます。
特集「体験を設計せよ」
特集は、いま最も熱いトピックを制作現場からお伝えするコーナー。
最近はもっぱら8月に行われる個展の準備に大忙しです。
記憶に残るゲームとは
私は絵を描く時もそうですが、個展をする時は特に、「お客様にどのような体験をしてもらいたいか」という目標を明確にし、その目標を達成させるためのテーマ・モチーフ・展示の方法などを設計するようにしています。
このとき、関連して考えるのがゲームのことです。私は子供の頃からRPGが好きで、記憶に残る体験を届けてくれるゲームとは、一体なんなのかをずっと考えてきました。心が震えるようなストーリー、思わず夢中になってしまうゲームシステム、美しくわかりやすいグラフィック、何度でも聴きたくなる音楽・・・どれをとっても素晴らしく、調和しています。これはそれぞれのパーツを作っている職人さんがエキスパートであることはもちろん、チームを率いているリーダーが、「ユーザーにしてもらいたい体験」をしっかりと意図し、目標から逆算して職人さんに指示を出しているからこそ、生まれるものであると考えています。
ゲームだけでなく、映画、舞台、小説、漫画、など、素晴らしい体験を届けてくれるものは、みなそのような構造になっています。
私の個展はお客様によい体験を届けられるのでしょうか。そんなことを考えながら、7月になったばかりの雨の日、展示会場の下見に行ってきました。
会場をどう使っていくか
「お客様にどんな体験をしてもらいたいか」ということを決めるためには、まず会場の雰囲気を確認しなければいけません。空間が人に与える影響は非常に大きく、頭の中で「してもらいたい体験」だけを先走って考えてしまうと、会場の雰囲気に合わないことが多くなります。逆に会場の雰囲気を実際に感じると、かならず「してもらいたい体験」のヒントをもらうことができるのです。
展示をさせていただくのは東京・大井町にある「o-i STUDIO」というギャラリー・ワークショップスペース。
o-i STUDIOを運営するのは画材・文房具メーカーである三菱鉛筆株式会社さん。「表現する」ということをテーマに、普段はワークスペースとして開放されていて、イベントやワークショップなども定期的に開催されています。
置いてある鉛筆やペンなどは全て自由に使うことができるという、何かを「描く」「書く」ことが好きな人にはたまらない場所です。
三菱鉛筆さんの文房具がずらりと並んでいます。こうして並ぶと「こんなに種類があったのか・・・」と驚きます。どれも生活に馴染みがあるものばかり。
この文房具が置いてある台も、よく見ると実は「鉛筆」でつくられているというこだわりです。
色鉛筆やカラフルなペンなどが虹のようなグラデーションに並んでいるのを見ると、嬉しくなるのは私だけではないはず。
一息つきたいときはカフェコーナーでコーヒー豆を買って飲むこともできます。
絵が好きなお子さんもよくきているそう。私が子どもだったら、毎日通い詰めたことでしょう。
このような素敵な場所での個展のお話をいただいたときは、嬉しいやらありがたいやら、そして自分のキャパシティーを超えているのでは?と途方に暮れるやらで、感情が忙しく働いておりました。
しかし、会場の下見や担当の方との打ち合わせを繰り返す中で「してもらいたい体験」の輪郭が少しずつ浮かび上がり、またその体験を実現するためのさまざまなアイデアが生まれてきました。
「展示期間は残暑が厳しい頃。暑い夏のイメージと、兼ねてから私の大好きな熱帯のイメージが重なるので、『熱帯の夢』をテーマにしてはどうか。」
「会場をまるでジャングルのような雰囲気にすることはできないだろうか。」
「画材や文房具などが置いてある『表現する』ということがテーマの場所。この文脈に合わせて、作品だけではなく、下図やアイデアスケッチなど、制作の過程がわかるような展示をしたら面白いのではないか。」
「その延長で、展示期間中に実演をするのもよいかもしれない。」
なんとも盛りだくさんな内容になりそうですが、目標はただひとつ、お客様の体験を設計していくこと。担当の方に協力していただき、これらのアイデアを形にしていく作業が始まります。
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こちらは作品を展示する白い壁。展示のメインとなる部分です。
広い壁なので、質を担保しつつ、8月末までに作品をどれだけ作れるかが勝負です。
下の写真の壁は、上がなだらかに湾曲している珍しい構造です。これはぜひ会場で実際に見ていただきたいのですが、大きな「紙」がカーブしているイメージで作られているとのこと。表現するということをテーマにした施設ならではの、粋な演出です。
この壁は投影できるスクリーンとしても使われているそう。担当の方が、「制作の映像をここに映し出してみては?」と提案してくださったので、私の手元がここに大きく映し出されることになりそうです。
会場にあるテーブルには、アイデアスケッチや下図を展示したり、使われている画材などを置いた、アトリエの再現などもしてみようと考えています。
下の写真は入り口のガラス扉です。よく、お店などのショーウィンドーにペイントが施されているのをたまに見かけますが、今回はそのイメージで、熱帯植物のペイントを施してみようと考えています。
担当の方に相談すると、窓ガラスに描いて水拭きで消せるという「ブラックボードポスカ」なるペンを貸してくださいました。そんな便利なペンがあるのですね。
統一感を出すために、使うのは1色だけ。いくつか気になる色のペンで、試しがきをさせていただくことに。
ガラスへのペイントとして、王道の白は第一候補。次に緑は、ジャングルの雰囲気には一番近いかもしれません。そして最後に赤。鮮やかな赤が心の中でなぜか主張しており、熱帯の作品群のキーカラーにもなっています。
実際にガラスに試しがき。
内側から見るとこのような感じです。どの色もとても綺麗で、描いた瞬間、「おお!」と感動の声をあげてしまいました。
外側から見るとこのような感じ。きてくださった方をジャングルで迎え入れるイメージになるとことを願います。
色はしばらく迷いましたが、赤に決定。
理由は鮮やかな赤1色で描く熱帯植物の世界が新鮮に感じたこと、また、o-i STUDIOの壁にはえんじ色が使われていて、この色との相性もよいと感じたことです。
ありがたいことにこの赤のペンをいただいたので、家の窓ガラスでも試してみようと思っています。
新しい発見
今後のスケジュールなどを確認して下見は終了。
とにかく担当の方が親身になって相談に乗ってくださいました。日々、嵐のような制作の中でやや疲れていたこともあり、打ち合わせは癒しのひとときでもありました。
帰りの電車の中でひとつ、考えたことがありました。私の中での、純粋芸術と商業美術とのつながりについてです。
私は子どもの頃から「絵が好きだ。絵が描きたい」と漠然と考えていたけれど、絵を描くことで何を達成したいのかということは、長いあいだよくわかっていませんでした。
広告やパッケージなど商業美術が好きだったので、以前はイラストレーションやデザインの仕事をしていました。そのうちにどうしても自分の中にある世界を表現したくなり、アーティスト、つまり純粋芸術の方面に転向したのです。しかし、商業美術の「クライアントの期待や要望に応える」というあり方の中に、私の達成させたいことのヒントがあるように感じて、なにかやり残したことがあるような、未練のようなものを感じていました。
しかしここで、純粋芸術として表現することと、商業美術のあり方が一本の線でつながったように感じたのです。
自分が表現したい世界とは、私ひとりの中で完結しているものではなく、普遍的なものです。例えば、誰の心の中にもある、魂が帰る場所。普段は忙しい生活の中で忘れているけれど、本当はずっと知っている場所。その場所に行けば、その人がその人に戻ることができる。こう書くととても怪しい気がするのですが、そういった場所は人間の中に必ず存在していると思うのです。
それを体験できる場を作るということが、絵を描くことや個展を開くことで、私が達成させたいことなのかもしれないと思いあたりました。
体験から逆算して設計するという商業美術的なあり方は、絵を見た人、会場に来てくれた人がもつ記憶にアクセスすることを助けてくれるでしょう。芸術に携わる人間なら、当たり前に持っている考え方なのかもしれません。しかし、私にとっては新たな発見でした。なぜ自分は表現したいのか、という問いに一つ答えが出た瞬間だったからです。電車の中で外の景色を見ながら、私はひとり熱くなっていました。
最新情報
【個展のお知らせ】
特集でお伝えした通り、東京・大井町の駅から歩いてすぐ「o-i STUDIO」にて、個展を開催します。
期間:
2026年8月27日(木)〜30(日)/ 9月3日(木)〜6(日)
「Tropical Dream」
こちらのニュースレターで進捗をご紹介していきますので、どうぞお楽しみに!
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ここまで読んでくださり、どうもありがとうございました。
それではまた2週間後にお会いしましょう。クリエイティブで素晴らしい毎日をお過ごしください。














