オオタニワタリの幻想
こんにちは。せいのちさとです。
このニュースレターでは、最近の制作についてや、マニアックな制作の裏側についてなどをお伝えしていきます。気になるところから読んでみてくださいね。
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特集「オオタニワタリの幻想」
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※個展準備の時間を捻出するため、「ものづくりコラム」の連載はしばらくお休みさせていただきます。
特集「オオタニワタリの幻想」
特集は、いま最も熱いトピックを制作現場からお伝えするコーナーです。
個展まであと1ヶ月を切りました。最近、個展に関連するさまざまな事務仕事や、仕事で人と会う予定などが立て続けにあり、数日間制作ができない時間が続きました。私にとって制作とは、楽しいというよりは重い荷物を背負って山を登る修行のようなものです。正直にいうと、朝アトリエの机に座るのは、1日の中で最も憂鬱な瞬間です。それでも絵を描けない時間が続くと、鉛筆を握りたくてたまらなくなってきます。人間の心とはいったいどうなっているのでしょうか。
絵を描けない期間が続くのも悪いことばかりではありません。記憶や経験がほどよく発酵して、よいアイデアが閃いたりするものです。いわゆるレミニッセンス効果というやつでしょうか。新たな作品のインスピレーションが湧いてきました。
オオタニワタリのスケッチから
下の画像は以前も記事の中で紹介した、植物園で「オオタニワタリ」という植物をスケッチしたものです。
オオタニワタリとは日本や台湾の熱帯に自生するシダのなかまで、青々とした葉の裏にはたくさんの胞子嚢がついています。この胞子嚢が整然と並んでいる様子が、宇宙の秩序を表しているように感じ、わけもなく感動したのでした。
ただ必要があってついているだけの胞子嚢が、なぜここまで美しい必要があるのか。誰が見ているわけでも、称賛してくれるわけでもないのに、自然には驚くべき美が当たり前のように溢れ出しています。
この神秘的なオオタニワタリは、スケッチだけではなく作品としても描いてみたいと常々思っていたところです。湧いてきたアイデアをいくつか描いてみました。
下のアイデアスケッチでは、胞子嚢がネオンサインのように赤く輝いています。少しリアリズムを超えた表現をしてみたいと思ったのです。ただ、胞子嚢を強調しすぎというか、やりすぎのような気もします。
もう少し考えて、こちらのアイデアに決定。色鮮やかな蝶が舞い、空には下弦の月が輝く、幻想的なイメージです。頭の片隅には大好きなエッシャーの「椰子」や、速水御舟の「炎舞」のイメージもありました。ご興味がある方はぜひ見てみてください。
下描きの奮闘
枠を描くのが好きなので、今回も枠線を作っていきます。
枠線はAdobe Illustratorという描画用のソフトを使って描き、プリンターで印刷します。直線やなめらかな曲線などは、このソフトで簡単に描くことができてよいのですが、簡単すぎて逆に吟味が足りなくなってしまう時があります。
枠の形が構図のよしあしを決めると言っても過言ではないので、アイデアスケッチを見ながら慎重に描いていきます。今回は上の部分がアーチになった枠線です。上から押しつぶしたような扁平な形が気に入っています。
完成したら、枠線を印刷した紙に、鉛筆で下描きを描いていきます。
まずは植物園で描いたスケッチや、写真の資料をもとに、オオタニワタリの全体像、そして一枚一枚の葉を描いていきます。中央の葉脈はしっかりとしていますが、葉のふちはダイナミックに波打っていて、力強さを感じさせます。
これを描いている時、「葉は波打っていても、中央の葉脈は波打つことがない」という植物の法則を発見した、若き日のことを思い出しました。今では当たり前のように知っていることも、最初は驚きだったのだなあとしみじみ感じます。
奥から手前に向かってくるモチーフは、なんど描いても難しいです。このようなアングルでモチーフを描いている時、いつも関連してマンテーニャの「死せるキリスト」という絵を思い浮かべています。キリストの身体を足のほうから見たアングルで描いた傑作です。彼のような圧倒的なデッサン力が欲しいものです。
蝶は全部で5頭。(虫は「頭(とう)」で数えるのだそうです。今まで蝶は「羽(わ)」だと思っていました。)
図案的にしたいので、斜めから見たところや羽をたたんでいるところは描きません。正面から羽を広げたところを描いていきます。蝶の胴体のところに線を引いて、片方だけ描いてから、紙を半分に折ってトレースするようにすると、多少作業が楽になります。
私は毎朝草むらの多い道を散歩するのですが、通り道にはいつもたくさんの蝶がいて、まるで道案内をするかのように先導をしてくれることもあります。その動きは優雅でありながらも敏捷で、隙のない功夫の達人のようです。人間界で蝶は可愛らしい印象で描かれることが多いですが、この作品では蝶の鋭い一面を表現できたらと考えています。
5頭の蝶は図鑑などから色鮮やかな種類を選び、モデルにしました。実際の生息地はできるだけアジア圏から選びましたが、離れている場合もあり、色も実際のものとは少し変える予定なので、架空の場面や生き物を描いていると言えるでしょう。
こちらのモデルはアカネアゲハ。後翅(下側の2枚の羽)の斑点模様がアクセント。
ムラサキシジミ。紫がかった青い羽が特徴。シジミチョウの仲間は羽が小さめで色が美しい仲間が多いようです。
ミドリシジミ。光るエメラルドグリーンの羽が魅力。色がどうついていくかお楽しみに。
下の蝶のモデルはホッポアゲハ。アカネアゲハの仲間でもあります。緑と青のグラデーションがとても難しそう。
ハレギチョウ。晴れ着をきているように華やかで目立つ模様をもちます。自然の中で出会ったらびっくりしてしまうでしょうね。
オオタニワタリの葉と蝶が描けました。ここからさらに葉の裏の胞子嚢を描き込んでいきます。
胞子嚢はどのような秩序で並んでいるのでしょうか。スケッチをもう一度見てみましょう。
葉の先端の方は比較的たくさんついています。葉の根元側にいくにつれ減っていき、下の方は全くついていません。
胞子嚢の部分をアップで描いたスケッチも見てみましょう。中央の葉脈から一定の幅は全くついていません。また葉の縁ぎりぎりまでついているのではなく、ある程度の隙間をあけて終わっています。基本的には線状に等間隔で並んでいますが、たまに少し寄り気味に並んでいるものがあったり、ところどころなくなっているところもあります。モールス信号やオルゴールのパンチカードを彷彿とさせる、リズミカルで楽しい配列です。
この秩序を頭に入れつつ、描き込んでいきます。描く前はとても面倒に感じていたのですが、意外と楽しい作業です。
人工物と見紛うような胞子嚢の配列ができてきました。
ついに完成です。胞子嚢や蝶をしっかり描き込んだおかげでしょうか、下描きの段階で、すでに少し妖しげな雰囲気を表現することができました。
アイデア段階からここまでが一番大変な作業なので、1枚下描きを終えるたびに少しだけホッとします。
個展開始までの26日間、あと何枚制作できるのでしょうか・・・。明日からついに8月、私の夏はいよいよ本番です。
最新情報
【個展のお知らせ】
東京都品川区の「o-i STUDIO」にて、個展を開催します。
「o-i STUDIO」は三菱鉛筆株式会社さんの運営する、ギャラリー・ワークショップスペースです。
2026年8月27日(木)-30(日)/ 9月3日(木)-6(日)
木・金…14:00-20:00、土・日…10:00-16:00
個展の準備にフォーカスした過去記事も、併せてチェックしてみてください。
こちらのニュースレターでは、引き続き進捗をご紹介していきますので、どうぞお楽しみに!
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ここまで読んでくださり、どうもありがとうございました。
それではまた2週間後にお会いしましょう。クリエイティブで素晴らしい毎日をお過ごしください。





















